最新更新日:2024/05/28
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10月28日(土)13:30より佐藤良太先生によるセミナーを実施しました。

 10月28日(土) 13:30〜15:30に、201教室において実施しました。
講師に愛知文教大学の准教授 佐藤良太先生をお招きし、夏目漱石「坊っちゃん」―明治の教育雑誌から読む〈学校〉― をテーマに行いました。

 今回のセミナーには、本学卒業生で県立高等学校の教師をしている方や現役学生、中高の先生方、研究者など多様な立場の参加者により学び合いました。

第1部 佐藤先生の研究より講義(明治教育メディアとの連動性)
□ 夏目漱石<坊ちゃん>について
□ <学校騒動>という背景
□ <大衆性>の基底
  ― 休 憩 ―
第2部 講義に対する学び合い
□ 参加者からの質問
□ <不徳教師>の存在と<煽動>
□ 佐藤先生からの追加コメント

第1部 
□ 夏目漱石<坊ちゃん>について
 本セミナーの滑り出しは、そもそも、「坊ちゃん」文中には「松山」の記載が一切ない。ところが、松山には「坊ちゃん電車が走り、坊ちゃん団子」がある???
資料:夏目漱石「坊ちゃん」直筆原稿には「中国辺のある中学校」の記述があり、その「中国」を「四国」に書き改めている。漱石は実際に松山中学校に務めているが、時代の文脈を反映し、地方の教育現場を活写している。

□ <学校騒動>という背景
 漱石は、明治とともに生きてきた。漱石は小説「坊ちゃん」を、学校の務めから帰り、400字原稿用紙に換算して215枚を一週間程度で書き上げた。この小説は、時代によってその想定が変遷している。2016年には映画化されはじめている。
 江藤淳は「坊ちゃん」解説=勧善懲悪の伝統と復活としての構造を紹介した。
 この小説のタイトルをなぜ「坊ちゃん」としたのか?
作中、「坊ちゃん」と語ったのは二人である。まず吉川(野だいこ)で「あのべらんめえと来たら、勇み肌の坊っちゃんだから愛嬌がありますよ」と語らせている。また、清(封建時代の下女のような老婆)に「あなたは正直でよいご気性だ、だから坊ちゃんだ」と語らせている。義理とか人情とか正直とかの倫理観が大事なものである。このことから、「法律にふれなければ道理などどうでもいい」といった時代に対する強烈なアンチテーゼとしてタイトルの意味があり、時代に問うた作品として読める。
 当時広汎に受容された「坊ちゃん」が<学校騒動>の文脈で受容される回路を提示
 資料:明治の教育事情(明治8年から30年間には学校数、教員数、生徒数が急増)により、教育専門の新聞・雑誌メディアの成長、資料:「太陽」(当時の総合雑誌)には、学校騒動の記載がある。当時の学校建築は、監獄(一望監視装置)を模しており、教壇があり鞭をもって教鞭にあたっていた。学校寄宿舎では学生が暴れていた。<学校騒動>の基底には、教員と生徒のディスコミュニケーションがあり、生徒は教員の品位を攻撃。教育を施す側の品行が指弾されていた。小説坊ちゃんにおける赤シャツの言辞に投影されている。
 明治20年〜30年代の学校騒動は年間76件(明治31年集計)五日に一回、大量(100名)の退校・(80名)停学の大規模な処分があった。

□ <大衆性>の基底
 「坊ちゃん」におけて展開されて教師と生徒の対立は、単なる面白い話ではなく、十数年にわたって全国各地で頻発していた「学校騒動」に回収される。
 今まで、江戸文学との関わり、落語そして漱石の事実譚として読まれていた「坊ちゃん」という作品が、実は<学校騒動>の文脈の中で、当時の人が理解したこととして捉えなければ、学校小説とも称されるものが十全な理解にならない。

休 憩

第2部 講義に対する学び合い
□ 参加者の意見交流 〇:参加者からの質問 ●:佐藤先生のコメント
〇学校騒動はどうやって収束したのか。
●大正期をむかえ頃、中学校・高等学校・大学と収束してきた。学校制度が変わってきたことが大きい。1895年頃から受験競争がはじまる。蛍雪時代ですよ。苦学をしてまで学校で学び、立身したいとの志向が生まれた。皆さんは、大学受験で東京へ出たいとの指向はありましたか?参加学生に質問するも、答えは「ない」。ですから、今はその指向は崩壊し、地元志向です。

□ <不徳教師>の存在と<煽動>
〇坊ちゃんを読んでいるとエリート意識のある教師と生徒の話に読めるがどうですか。
●赤シャツが新任の坊ちゃんに対していつも見ているよとのメッセージを、生徒を使って送っていた。最後に師範学校と中学校がけんかする場面がるか、その場へ新聞記者をよんで、気に入らない不徳教員を放逐するため記事を書かせている。
〇赤シャツとしては、後から入ってきた坊ちゃんが高給を取ることが気に入らなかった?
●赤シャツは帝大卒です。坊ちゃんは物理学校卒ですから、赤シャツのほうが上です。じゃあ、赤シャツは誰かと考えると、夏目漱石ですよね。
●赤シャツはなんで赤いシャツを着ているのか?
 資料を読み解く。天然痘予防のために、赤がいい。だから、病気にかからない。病気もコントロールしたいという人物像として描かれ、読者は全国にもそうした人物が多くいたとして読んでいた。漱石は社会派的な作家であり、意識して、社会背景を松山の中学校における騒動を描いた。
●学校騒動の五大原因について(資料:太陽;梅謙次郎談)をたどりながら確認していく
〇明治の時代の学校騒動というのは中等教育以上だと思うんですけど、学校批判は今も変わらず同じで続いている。この五大原因は批判の典型ですね。
●私は思うんですけど、もし、戦後の学校教育も変わらす連続性があるとしたら、学校教育はあまり変わっていないのかな。
〇そうなんですよ。批判の仕方も変わっていない。だから、こういう時代背景の中で、坊ちゃんという作品に仕立て上げたことが素晴らしいことですね。
●よく言われている通りですが、漱石は松山に1年足らずしか居なかった。28歳の短い体験を39歳に書いた作品で、漱石は時代の中の問題がわかっていたということです。
●尾崎豊のヒット曲「卒業」に描かれている世界は、1980年代の管理教育の学校の姿ですね。スクールウオーズです。昔の先生は、鞭をふるっていた。
〇今は、幼児教育にその様子が見えますよね。
●坊ちゃんの映像作品には、マドンナの描かれ方が時代とともに変化している。小説の中の女性はしゃべらない。しかし、松坂慶子演ずるマドンナは、活動的な女性としてよくしゃべる。女性の服装(葉絣と袴・セーラー服・ブレザー服)からもジェンダーを見ることがでる面白さがあります。
 時代と作品を掘ってくると、違う視点がもっと出てくるような気がします。と結ばれました。
 
参加された方からの振り返りを紹介します。
◆今日の講座で学んだ中で重要だと思ったことは、教科の専門性を身に付けることです。
 魯迅の故郷を中3で読みます。この作品で魯迅は当時の世間を変えようとしたとされます。漱石の「坊っちゃん」にもそういう意図があったということに驚きました。リズミカルで楽しく大衆的なフィクション作品としてしかとらえていなかったからです。
「坊ちゃん」が学校騒動を背景としており、これを読みとくことで当時の学校問題がうきぼりに なってくるという視点も目からうろこでした。国語の授業を行うにあたって、教材研究が大切だと言われます。教材研究は素材研究だけではありません。学習者、研究指導者研究もあります。でも現場の小中学校教諭は、教材研究=即座に指導研究ととらえ、授業をどう進めるかばかりに目を向けます。私は、教材研究は教材の価値を見抜くことだと思っておりそのためにも今日のような専門性のある研究こそが授業づくりにも不可欠だと改めて実感しました。本作品は中学の教科書には取り上げられていませんが、中3で授業してみたいなあと思いました。
 佐藤先生の語りにひきこまれ、また、その造詣の深さに 感服いたしました。すっごく楽しかったです。ありがとうございました。
◆今日の講座で学んだ中で重要だと思ったことは、『坊ちゃん』が意外にも社会的な小説だったことです。
 猫や坊ちゃんは、漱石の作品の中でも軽い作品だと捉えがちだが、時代背景と作品の中身を考えると、かなり社会的な作品だというのが、佐藤先生の主張だった。学制頒布という前代未聞の近代化を図った明治は、〈学校騒動〉の時代でもあったらしい。それに関しては、よく理解できた。ただ、その時代の中等教育は、あくまでもエリート(田舎のエリートかもしれないが)対象の教育だった。そのエリートが従順ではなく勝手なことをしていたことが〈騒動〉と受け止められていた傾向もあったのではないだろうか。
 教育史の研究から、確かにこの時代は〈学校騒動〉の時代だったとの裏付けがあると、より説得的になると思う。教育史の観点からは、むしろ無理やり急激に学校制度を作ったことによる弊害や影響が語られていたように思う。ただ、これだけ当時の教育誌で問題視されていた〈学校騒動〉が、なぜ教育史ではそれほど重視されてこなかったことの方が印象に残った。同盟休校や旧制中学校・旧制高校の生徒の放埒が、むしろ好意的に語られている印象を受けるのはなぜだろうか。作品を時代背景のコンテクストの中で解釈するのは、当たり前のことでもあるが、それが『坊ちゃん』を対象に語られるというのは新鮮だった。

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